BlueRebirth協議会 設立趣意書
環境保全と経済成長とを両立するだけでなく、資源の確保および安定供給にも資するサーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みとして、各国で再生材料の利用を進める動きが顕在化しつつあり、高価値資源が多く含まれる自動車においても動きが進んでいる。欧州委員会は、ELV(使用済自動車)由来の樹脂の再生材使用率の義務化などを謳ったELV規則案を示しており、今後さらに厳しい規制を課す可能性にも触れている。また、欧州自動車メーカー各社は、Tier1に対する高い再生材使用率の要求を示し始めるとともに、自動車リサイクル産業(解体事業者・破砕事業者・設備産業等)・材料メーカー・アカデミアとのコンソーシアムを立ち上げた。このように欧州においては、再生材利用に関する法制度の整備と、セクターを跨いだ動静脈連携により、あるべき姿の共通理解・機運醸成と活動体制の構築・推進が両輪で動いており、デジュール戦略に抜かりがない。天然資源の少ない我が国にとっても、基幹産業である自動車産業の資源循環の確立は極めて重要な課題であり、省庁や民間企業での活動が徐々に始まっている。一方で、自動車リサイクル産業は、サーキュラーエコノミーの時流において極めて高い成長ポテンシャルがあるが、国内事業者においては高度機械化やデジタル化といったテクノロジ転換の遅れと、快適・清潔・安心安全な労働環境の未整備に起因する圧倒的な担い手不足といった問題点があり、将来に向けてこれらを解決した上で、適正な事業者の成長機会を創出するとともに、子供たちが憧れる職業に変革していくことが望まれる。我が国の動脈・静脈は、これまで異なる歩みを進めてきたため、商習慣・文化の隔たりが少なからず残っているが、サーキュラーエコノミーの実現に向けては、動静脈が一体となり融合して課題解決および産業活性化を図っていく必要がある。
そこで我々は、ELVから質の高い再生原料を大量に抽出し、それをリサイクルすることにより環境価値の高いクルマに生まれ変わらせる、という「Car-to-Car動静脈融合バリューチェーン」の“あるべき姿”を描き、産官学の各関係者からの共感を得ながら、共にこのバリューチェーンへの変革と社会実装を目指すこととした。
ここまでに示した通り、我々は、自動車産業が持続可能な産業であり続けるためには、質と量を動脈と静脈とで同期させた「Car-to-Car動静脈融合バリューチェーン」が必要不可欠だと考え、その“あるべき姿”を以下のように考えた。
①従来の自動車リサイクル産業は、高品質で信頼性のある再生原料を生み出す「再生原料製造業」へと進化する。再生原料製造業の担い手は、標準化・規格化された再生原料をELVから安定的に抽出し、再資源化の担い手に出荷する。取り扱う再生原料は、自動車製造業が安心して使えるように、素性や環境負荷情報をデジタルプラットフォーム上に記録して動静脈で共有することにより、素材の価値を共に認め合う。これにより、再生原料製造業の売上最大化を図るとともに、ダウンサイクル中心の循環からCar-to-Car水平サイクルに出来るだけ移行することによって、産業全体のGHG排出量や天然資源使用量の削減を目指す。
②ELVから再生原料を安定的に大量に抽出するための手段として、全国の再生原料製造業の担い手は自動精緻解体システムを導入する。このシステムは、高性能ロボットや自動化された処理設備・搬送装置により構成され、ELVから単一素材を抽出して検査・出荷するまでのプロセスが一気通貫に繋がった世界初の革新システムである。高度に知能化されたシステムは、従来の手法では達成困難な純度や成分管理により、自動車製造業の要求品質に応えられるだけでなく、過酷な労働環境に起因する人手不足の抜本的な解決にも資する。その結果、このシステムの導入により、再生原料製造業を「稼げる産業×ホワイトな産業」に大きく発展させる。
これまで述べたような課題と“あるべき姿”をステークホルダーと共有し、自動精緻解体を起点としたCar-to-Car動静脈融合バリューチェーンの実現に向けた課題(国民的な機運醸成、制度設計、バリューチェーン事例づくり、他産業とのシナジー最大化、広報活動など)を議論し、具体的な調査活動・技術開発・実証活動・関係者への提言を通じて解決すべく、2025年6月、BlueRebirth協議会を設立する。