奥田今日は、「BlueRebirth(以下、BR)」によって実現したい未来像やその未来に向けて挑戦しなければならないことについて皆さんと議論を深めていければと思います。まず、BRの現在地について少し整理させてください。私たちはBRを、自動車産業における動静脈融合バリューチェーン全体を表す言葉として定義しています。そのなかで、各プレイヤーの役割を大きく3つに分類しました。
1つ目は私たちデンソーのような、自動精緻解体ロボット及びシステムを供給する立場である「BlueRebirth Enabler(ブルーリバースイネーブラー)」。2つ目は、再生原料製造メーカーである「BlueRebirth Maker(ブルーリバースメーカー)」。そして3つ目が、完成車メーカー、部品メーカー、材料メーカーなどの原料の使い方や要求仕様を出す「BlueRebirth Partner(ブルーリバースパートナー)」です。この3者が足並みをそろえ、自動車の資源循環を生み出すために立ち上がったのがBRです。
山中今の分類でいうと、私たちマテックは「BlueRebirth Maker」に当たりますね。弊社は主事業の1つとしてELV(使用済み自動車)の再資源化に取り組んでおり、「ELVの100%リサイクル」を目指して、引き取りから解体、破砕、ASR再資源化及び回収した部品の資源化まで一貫して取り組んでいることが特徴です。特に力を入れているのが、社名の由来にもなっている「マテリアルクリエーション(資源の創造)」の実践です。自然から得られる天然資源を「第1の資源」、人間の作り出す加工物や加工原料を「第2の資源」、そしてリサイクル可能なすべての物質や廃棄物を「第3の資源」と捉え、この第3の資源の創造に挑戦し続けています。
浅野私たちリバーもマテックさんと同様に「BlueRebirth Maker」に当たる会社です。自動車リサイクル法で定められた引取業、フロン回収業、解体業、破砕業のすべての許認可を取得しており、解体から破砕まで一貫で処理できる全国でも数少ない事業者のひとつです。関東地域における破砕処理のシェアは3分の1に達しており、年間約20万台のELVを処理しています。
私たちの強みは、自動車に関わる廃棄物処理の総合的なソリューション提供力です。都内100拠点以上の自動車ディーラーと取引があり、マフラーなどの金属部品、バンパーなどの樹脂部品、さらにはバッテリーやスプレー缶といった危険物まで、さまざまな廃棄物の処理とリサイクルスキームを構築しています。環境省の優良産廃処理業者認定も受けており、親会社であるTREホールディングスは東証プライム市場に上場しています。こうした信頼性を背景に、各自動車メーカーと連携しながら、電動車などの次世代自動車の再資源化にも積極的に取り組んでいます。
解体事業者が「産業のスタート地点」に
奥田これまで皆さんとも議論を重ねてきましたが、BRが目指す大きな方向性は、端的に言うと「動静脈融合バリューチェーン」の構築です。サーキュラーエコノミーへの転換は、この動脈と静脈の密な連携なしには成立し得ません。それぞれのプレイヤーが同じ輪の中で、1つの大きな共同体を成すかように融合し、新しい価値を生み出していく――これこそがBRの目指す理想のあり方です。
山中車から車への資源の再利用、つまり「Car to Car」の推進が喫緊のミッションですね。将来的には自動車以外の産業とも接続して「Car to X」を視野に入れていくと、素材の利活用の幅は格段に広がっていくなと想像していますが、まずは足元で「Car to Car」のサイクルの構築にしっかりと取り組んでいきたいです。
奥田そうですよね。自動車産業の動脈と静脈が一体となって「生かせる素材は業界内で生かしきる」ということに真摯に取組んでいきたいなと。このあたりは、原料加工のプロフェッショナルである「BlueRebirth Partner」との連携が重要になってくる側面だなと思っています。浅野さんは、いかがでしょうか。
浅野BRの取組みの話を聞いた時に、最初は「そんな壮大な変革を生み出せるのか?」と半信半疑だったのですが、今こそ業界内が団結する機運だなと思っていたんですよね。日本は欧米と違って「リサイクルメジャー(大規模リサイクル企業)」が存在せず、中小企業の集合体で成り立っています。世界の自動車産業全体で「原材料の確保」が大きな課題となっている今、欧米のリサイクルメジャーは日本の自動車リサイクル市場に注目し始めていて、ELVの国外輸出量は増加傾向にあります。
山中日本はこうした状況に対抗していく必要があるものの、今から欧米と肩を並べるリサイクルメジャーをつくるのは現実的ではありませんよね。ならば、業界全体で協力体制を整えて「オールジャパン」として彼らと同等の力を発揮していかなければならない……だからこそBRだと。BRを通して一致団結し、業界を挙げて資源の活用と循環を推進していくことで、ELVの流出に歯止めをかけていきたいですね。
浅野そうですね。私はBRの働きかけを通して、静脈企業のプレゼンスが大きく向上するのではないかな、と期待しています。これまでは、動脈である大手メーカーが自動車を製造し、それが使い古されて最終的に静脈に回ってくる構造から、解体事業者は「終わり・下流」というような位置付けをされることが多かったように感じます。
これからBRの取組みが浸透していけば、私たちはメーカーに資源を供給する「産業のスタート地点」になれる可能性があるんですよね。こうした構造の転換から、現場の意識がポジティブに変化していけば、「自分たちが自動車産業を引っ張っていけるんだ」という気持ちで主体的に働く人たちが増えていくはずです。
「品質・量・経済合理性」が実装のカギを握る
奥田動静脈融合型のバリューチェーンの実装に向けては、いくつかクリアしていかなければいけない課題がありますよね。特に、再資源化した素材を持続可能な形で流通させていくには「品質・量・経済合理性」を、それぞれどう担保していくかが重要になってくると感じています。
山中リサイクル原料を使用した部品だからといって、品質が劣ってしまっていては生活者に選ばれないし、ある程度の量を生産できなければ原価が高くなりすぎて使われない。これらをクリアすることで、BRの取組みの経済合理性がはじめて成立してくる、ということですね。
奥田私はそのために「素材の情報共有」についてのルールメイキングが不可欠だと考えています。これまでは基本的に、自動車の部品に使用されている材料の詳細は、それを作ったメーカーしか知り得ない情報でした。なぜならば、材料に関する情報は部品メーカーの生命線であり、競争力の源泉だからです。
浅野ただ、私たち解体事業者の立場からすると「元の部品がどのような成分構成なのか」「どの部分にどの素材が使われているのか」という情報はあったほうが、再資源化における効率や生成される素材の安全性は確実に高まって、品質や生産量を担保しやすくなります。誰かが不利益を強いられないように慎重な折衝が必要ですが、将来的には「融合」とも呼べる信頼関係を築いた上で、図面情報なども含めた各部品の情報共有ができるシステムを構築していけるといいですね。
奥田そうした情報共有と合わせて進めていきたいのが、いまBRでも注力している「自動精緻解体システム」です。
AIやロボット技術などを駆使した精緻解体システムの普及こそが、「品質・量・経済合理性」のバランスを最適化していく上で、現状最も重要なポイントだと捉えています。
従来の解体や破砕の工程は「後で選別すればいい」という考えが主流でした。なぜならば、さまざまな素材が混ざっている状態でも、一度に多くの量をスクラップするほうが、トータルのコスト面で合理的だからです。しかし、後で選別する方法ではどうしても、100%の精度で素材を仕分けることが不可能です。どんなに精度の高い選別機を導入したとして、99.9%の精度で物質を分離できても、残る0.1%に何が含まれているか分からなければ、その原料から生まれる素材は設計者として採用できません。その0.1%が原因で材料亀裂(クラック)の起点が生じ、自動車の安全性に問題が起こるようなことがあってはならないんですよね。
だからこそ、私たちは「精緻解体」を提言しているんです。素材をプレスしてシュレッダーにかける前の段階で材料ごとに分けて解体することにより、後で破砕された素材の一粒一粒を検査する必要がなく、部品単位で検査・保証された素材を提供できます。精緻解体のプロセスを経て生まれた素材は「信頼性の高い再生材」として付加価値をつけることが可能です。
ただし、いくら信頼性が高くても、それらが少量しかできないようなシステムでは意味がありません。自動車のような製造業での活用を前提に置くのであれば、必ず「大量かつ安定的な供給」が求められるからです。そのためにロボットなどを駆使して精緻解体をなるべく自動化していこうと試みている次第です。
山中信頼性について補足をすると、「100%の素材の純度」にこだわるよりも、「0.1%に何が入っているのか明確に説明できること」が重要だということはよくわかりました。純度にこだわるとどうしても選別コストが上がってしまい、価格も高くなりがちです。素材に何が含まれているか確実に把握できれば、現場では安心して活用の方法を検討できる。そういう状態を作っていくためにも、精緻解体をBRの基盤にしていきたいですね。
浅野情報の信頼性を担保する上では、トレーサビリティの仕組みの整備も不可欠ですね。「どのような由来の材料なのか」「何を破砕したものなのか」「どういった成分が含まれている可能性があるのか」といった製品情報をQRコードなどに埋め込み、動脈から静脈へ、また静脈から動脈へと、正確な情報が確実に記録・共有され続けるシステムを作っていく。これができてこそ「動静脈融合」といえるバリューチェーンなのでしょう。
奥田トレーサビリティは、リサイクル材が持つ環境価値の可視化にも役立ちます。鉱山から原料を掘り起こし、タンカーで日本まで運び、材料に仕立て上げる――こうした一連のプロセスには膨大なエネルギーが必要です。一方、私たちはELVを分解し、それを溶かして材料化します。後者のプロセスのほうが、圧倒的に温室効果ガスの排出量は少なく済む。この環境価値を製品情報として明示しつつ、それを社会に正当に評価してもらえるように社会的な機運を醸成していくこともまた、私たちの向き合うべき課題だと捉えています。ここまでの議論で物流、製品の情報共有、素材の選別、トレーサビリティなどさまざまな観点から課題が出てきましたが、それらをすべてひっくるめて、これからBRとしての「統一の規格」を整えていくべきだと強く感じています。「この条件を満たした品質のものは、こういう価値がある」という規格をつくって生活者に丁寧に訴求できれば、環境に配慮した原材料だからこそのプレミアム価格で買っていただけるようになるはずです。
「クリエイティブとサステナブルの両立」を目指して
奥田皆さんはBRでの取組みを通じて、未来の自動車産業をどのようなイメージに変えていきたいと考えていますか? 象徴的な言い方を選ぶのであれば、私はこの仕事をもっと「子どもたちの憧れの職業」にしていきたいです。もっとみんなに「カッコいい仕事」だと思ってもらいたいんですよ。
山中奥田さんはよくBRの会議でも「迷ったらカッコいいほうを選ぼう」と言っていますよね。
奥田気付かれてましたか(笑)。でも、これはけっこう本音でいつも言ってるんです。リサイクルの高い技術力を持っているマテックさんやリバーさんはもちろん、BRに参加してくれている企業の皆さんは本当にカッコいい仕事をしています。そのカッコよさに相応しい職場環境を、BRの取組みを通してつくっていけると信じています。
浅野私たちのような解体屋は、一昔前までは「くず屋」「スクラップ屋」などと呼ばれていましたし、自分たちの仕事に対してプライドを持っている従業員は少なかったように思います。しかし、最近では「リサイクラー」と呼ばれる機会が増え、こうして業界全体の未来を牽引するような場にも参加できるようになりました。社会から、そして時代から、私たちのカッコよさが認められつつあるのかな、と感じているところです。
個人的にはBRの取組みをもっと、子どもたちや若い世代にも伝えていけたらいいなと思っています。彼らが私たちの議論にインスピレーションを受けて、大人になってからプレイヤーとしてこの分野にどんどん参入してくれたら、これからの日本の自動車リサイクル産業はもっと明るく、そしてカッコよくなっていくはずですから。
山中未来では、きっと技術面でも新しい可能性が広がっているでしょうね。たとえば、解体やリサイクルの技術を競い合う世界大会のようなイベントがあったら、業界的にも盛り上がると思うんです。刻々と磨いてきた技術を、対外的に評価してもえる場があることは、日々の業務の意欲を生み出すきっかけにもなるはずです。将来的にBRで実現できないかな……などと考えています。
奥田私たちが生業としている「ものづくり」は、本質的にクリエイティブで、楽しいものなんですよね。ただし、そう無邪気なことを言っていられる状況ではないことも理解しています。新しいものを作ること、クリエイティブな営みが環境にとって「よくないもの」と見なされないように、「クリエイティブとサステナブルの両立」を常に念頭に置き、それらの相乗効果を持って社会をポジティブに発展させていければと思います。ここから、頑張っていきましょう!