自動精緻解体の現場から見えた可能性

― BlueRebirth協議会 初の見学会レポート ―

循環型社会の実現に向けた取り組みが進む中、BlueRebirth協議会では、 参画企業・団体間の連携強化を目的として、初となる見学会を実施しました。
会場は、使用済自動車の解体設備の開発に取り組むデンソー阿久比製作所。
本見学会は複数回にわたり開催され、延べ100名以上が参加するなど、協議会内で高い関心を集めました。
本記事では、見学会に参加された企業および研究機関の皆さまへのインタビューを通じて、 現場で得られた気づきや、今後の連携・展望についてご紹介します。

今回の見学会に参加した企業・研究機関を代表し、3名の方に話を伺いました。

~「作る側」と「解体する側」の視点の違いを、どう設計に反映させるかが今後の課題~

マツダ株式会社 技術本部 車両技術部 プラスチック技術グループ 主幹 田中 慶和

Q1.精緻解体の現場を見学しての率直な感想

精緻解体の現場を見て、現在の自動車は「解体されること」を前提に設計されていないと改めて感じました。今後は、「作る・使う」だけでなく、解体のしやすさや素材の分離性まで含めた設計が重要になってくると思います。
車種やメーカーによって解体性に差がある点も印象的でした。もし解体しやすさを定量的に示す指標があれば、作る側として解体のしやすさを設計する際に非常に参考になります。

Q2. 技術面・工程面で期待を感じた点、課題に感じた点

自動車はメーカーごとに特徴があり、素材特性や接合など独自性を出すことが差別化のポイントでもありました。製造工程でも完全なる自動化は実現できておらず、今でも人手に頼っている部分が少なくありません。その中で、解体工程にロボットや自動化技術を本格的に取り入れている点は、非常に先進的だと感じました。
一方で、製造工程で工夫した接合技術が、解体時には分離の難しさにつながるケースもあります。「作る側」と「解体する側」の視点の違いを、どう設計に反映させるかが今後の課題だと感じています。 

Q3. リサイクル材料活用と国内資源循環への考え方

近年、再生材の調達競争は激しく、品質の高い材料ほど不足しがちです。
その中で、地政学的なリスクも高まっており、国内で資源を循環させる仕組みづくりは、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの観点からも非常に重要だと感じています。BlueRebirthのように、由来が明確で高純度な材料を供給できる取り組みには大きな可能性があります。

Q4. プラスチックリサイクルにおける「量」と「品質」の課題

社内でも欧州ELV規則の件もあり、プラスチックリサイクルはホットな話題です。
プラスチックリサイクルでは、品質・量・コストを同時に満たすことの難しさが常に課題になります。業界全体で突破口を開いていく必要があると認識しています。
今後は、高性能材料の開発だけでなく、市場に実際に存在する材料をどう車づくりに活かすかという視点が重要になると思います。

Q5. BlueRebirthへの期待

自動車メーカー単独でできることには限界があります。だからこそ、BlueRebirthのような業界横断の枠組みが、業界全体を束ねていく存在であることに大きな価値を感じています。材料調達やリサイクルを「競争」ではなく「協調」として捉え、業界全体で取り組んでいく。
当社もBlueRebirthに主体的に参画し、業界全体の取り組みを前進させる役割を果たしていきたいと考えています。
 

~「世界初の挑戦、日本における官民連携の象徴的なプロジェクト」~

野村総合研究所                                              コンサルティング事業本部 エネルギー産業コンサルティング部 部長 向井 肇                 コンサルティング事業本部 エネルギー産業コンサルティング部 資源エネルギー・環境グループ                     グループマネージャー 樹 世中

Q1. 自動精緻解体をご覧になった印象を教えてください。

向井:
実際に見るまでは、「まだ少し先の話なのかな」という印象を持っていました。ただ、今回拝見して、想像以上にスムーズに動いていることに驚きました。今の時代は、サイバー空間上でさまざまなことがシミュレーションできますが、やはり実物があるからこそ得られる知見があると感じました。ロボットだからこそ見えてくる工程や制度面の課題もあり、実機開発とデジタルの両輪で進めていく重要性を改めて実感しました。
また、見学会後にはOEMの方から、「解体しにくさについて、もっと具体的に知りたい」などの声も上がっていましたが、実際の解体現場を見ることで、設計側の意識や課題認識も更に変わっていくのではないかと感じました。多くの方に現場を見てもらう意義は大きいと思います。

樹:
私は今回で4〜5回目の見学になりますが、以前と比べてかなり進化していると感じました。特に、ドアパネルの分解など具体的な工程が進み、動作も非常にスムーズになっており、日々開発はアップデートしているのだなと。
これまでは「あと2年くらいで本当に実現できるのだろうか」という印象を持っていましたが、今回は「意外といけるかもしれない」と感じられるレベルまで来ていると思いました。
以前は部分的な動きしか見えていませんでしたが、今回は実際の運用イメージがかなり具体的に見えてきました。 

Q2. プロジェクト立ち上げ当初と比べて、各省庁や関係者の期待感に変化はありましたか。

樹:
環境省の「自動車リサイクルにおける再生材利用拡大に向けた産官学連携推進事業」の一つとして採択された、「ELV自動精緻解体を起点とした水平サイクルを実現する動静脈一体プロセスの技術実証」の立ち上げ段階から関わらせていただいています。当初から環境省には非常に期待を持って応援いただいていました。一方で、経済産業省については、新しい取り組みだからこそ、少し慎重に見られていた部分もあったと思います。
しかし、この採択事業の中で実際に成果を見せられたことは非常に大きかったと感じています。成果が見えてきたことで、各省庁や関係者の皆様の期待感や受け止め方も、徐々に前向きなものへと変わってきた印象があります。現在では、多くの関係者が前向きに見てくださっていると感じています。 

Q3. BlueRebirth協議会のような業界横断の取り組みについて、どのように感じていますか。

向井:
業界横断で進めることには非常に大きな意味があると思っています。「みんなが取り組んでいる、自分たちもやらなければ」という良い意味での推進力が生まれるからです。
民間企業同士だけでなく、官と民の双方がお互いに刺激し合いながら進めていける点は、この取り組みの大きな価値だと思います。

樹:
関係者が多いほど調整は難しくなりますが、日本の強みは“摺り合わせ型”で進められることだと思っています。欧州ではトップダウン型で進めるケースも多いですが、日本は関係者同士で議論を重ねながら、実現性の高い仕組みを作っていく傾向があります。
BlueRebirth協議会には、多様な立場の方々が集まり、しっかり議論しながら進められる良さがあると感じています。

Q4. 今後、精緻解体や資源循環を社会実装していく上で重要なことは何でしょうか。

向井:
解体しやすさや循環性を追求していくと、製品が似通っていく可能性もあります。その中で、「どこを共通化し、どこで各社が独自性を出すのか」というバランスを考えていくことが重要だと思います。そうした議論を、業界全体で進めていけることも協議会の価値だと感じています。

樹:
これは単なる技術開発ではなく、ビジネスモデルの議論でもあると思っています。循環を実現するには、コストを抑えながら成立させる必要があります。コストが上がりすぎると、バージン材に対する競争力を持てなくなってしまうため、自動化によって安定した低コストを実現することが重要です。
また、「誰がどの役割を担うのか」「どの規模で社会実装していくのか」が定まらないと、必要な技術や設備規模も決めにくい部分があります。技術だけではなく、産業構造全体を見据えた議論が必要だと感じています。

Q5. BlueRebirthへの期待を教えてください。

向井:
大学院時代に自動車リサイクルをテーマに研究していたこともあり、当時考えていたことがいよいよ現実になろうとしている、ということを感慨深く感じています。
この取り組みは世界初の挑戦になると思っていますし、日本における官民連携の象徴的なプロジェクトになっていくことを期待しています。

樹:
循環産業は、今後より“産業集約型”のビジネスになっていくと思っています。自動車だけでなく、家電などさまざまな製品にも応用できる可能性があり、BlueRebirthの取り組みもさらに広がっていくことを期待しています。
 

~BlueRebirthは、単なる解体プロジェクトではなく、資源循環全体をつなぐ“脳(ハブ)”の役割を担える存在~

東京大学 先端科学技術研究センター社会代謝システム分野 教授 未来戦略LCA連携研究機構 機構長 醍醐 市朗

Q1. 精緻解体の取り組みを見学しての第一印象

まず前提として、非常に先進的で面白い取り組みだと感じました。同時に、先進的だからこそ技術的に難しい課題が多いとも感じています。
たとえば、ネジを外さずに樹脂を切り抜く、錆びたボルトを削るなど、従来の「解体の常識」にとらわれない発想とノウハウの蓄積が、この分野では不可欠だと思います。

Q2. データ蓄積がもたらす最大の価値

特に大きな価値を感じたのは、解体工程のデータが定量的に蓄積されていく点です。
これまで自動車解体は、各事業者の経験に依存しており、作業内容がなかなか可視化・定量化されてきませんでした。この取り組みを通じて蓄積されるデータは、次世代のDfD(解体設計)やDfE(環境配慮設計)へ直接フィードバックできる情報になります。
家電リサイクルの進化と同じように、自動車分野でも大きな変化をもたらす可能性を感じました。

Q3. 解体工程における技術的課題

今後の課題として強く感じたのは、
「どこまで素材を分けるのか」という設計と経済性のバランスです。
単に鉄を鉄として回収するだけでなく、ハイテン材などの違いまで分けられれば価値は高まります。ただし、分けるための手間やコストを、誰がどれだけの価値として受け止めるのかという社会的な仕組みが必要になります。
また、ロボットによる解体では、対象物をいかに安定して固定するかという非常に基礎的でありながら解決が難しいエンジニアリング課題もあると感じました。

Q4. コストと量の現実的な壁

資源循環は、コストが成り立たなければ回りません。
カーボンやサーキュラーエコノミーに価値が付くことで、一定のプレミアムが許容される可能性はありますが、単純に「コストを倍かける」モデルは現実的ではないと感じています。
やはり、量を確保しながらコストを下げていく構造づくりが不可欠であり、制度設計や業界全体での取り組みが重要になると考えています。

Q5. BlueRebirthに期待する役割

BlueRebirthは、単なる解体プロジェクトではなく、資源循環全体をつなぐ“脳(ハブ)”の役割を担える存在だと感じています。
•    解体現場で得られる実データ
•    それを活かした材料生産・設計へのフィードバック
•    さらに制度や社会へのメッセージ発信
これらを一体として描ける点に、BlueRebirthの大きな価値があるのではと感じています。製造側だけでは描けなかった視点から、ライフサイクル全体の設計を提示できる存在として、今後の展開を期待しています。
 

今後もBlueRebirthへ寄せる熱い期待や想いをお伝えしていきます。