識者が見る、自動精緻解体の現在地

循環経済の実現に向けた取り組みが進む中、BlueRebirth協議会では、参画企業・団体間の連携強化を目的として、使用済自動車の自動精緻解体設備の開発に取り組むデンソー 阿久比製作所の見学会を実施しています。今回は、協議会の有識者委員である3名の皆さまをご案内し、自動精緻解体技術の開発状況や社会実装への期待、今後の課題などについて、それぞれの専門的な視点からご意見を伺いました。

技術開発成果を現場証明するフェーズへ

東京大学大学院    工学系研究科 精密工学専攻  教授 梅田 靖 様                                               

Q1. 見学会を通じて、どのような印象を持たれましたか。 

率直に、想像以上に着実な進化を遂げていると感じました。以前見学した際は自動車の“解体”にフォーカスしており、機械の稼働も限定的でした。しかし、今回はドアパネルの締結を解除するデモンストレーションをはじめ、実用化に向けた機能が着実に追加されてきていることが確認できました。また、開発に携わっているメンバーが生き生きとしているのが印象的で、取り組みそのものを楽しんでいるように感じました。

Q2. 社会実装に向けた期待感についてお聞かせください。

BlueRebirthが優れているのは、実用化に向けたロードマップが明確であることだと思います。今回拝見した機械は、まもなく実際の現場での技術検証が予定されていると聞いています。ただ、本当の勝負はここからです。ラボの整備された環境下で得られた成果を、実際の現場でどれだけ再現できるか。正直、検証の過程でさまざまな不具合に直面することと思います。しかし、そうした課題を一つひとつ潰して、乗り越えていくことこそ技術開発の醍醐味ではないでしょうか。世界的に見ても前例のない取り組みだからこそ、得られるノウハウや知見は何ものにも代えがたいはずです。次のフェーズも楽しみにしています。

Q3. 見学会を通じて見えた今後の課題、乗り越える論点はどこにあるでしょうか。

社会実装の道筋が見えてきた今だからこそ、再生原料の“質”に目を向ける段階に来ていると思います。自動化の本質的な価値は、時間的な制約を受けずに安定した生産が行えることにあり、今後は再生原料の品質や生産コストといった部分にフォーカスして取り組みを進めていくべきだと考えます。

Q4. BlueRebirthに期待する役割について教えてください。

機械の小型化や機能整理など、多様な意見が開発に反映されていると感じました。こうした成果は、さまざまなプレーヤーが参画するBlueRebirth協議会ならではの価値であり、協議会の存在意義そのものだと思います。メンバーが共に汗をかき、本気で実用化を目指す組織であるからこそ、未来の資源循環を牽引する存在としての成長を期待しています。

Q5. 最後にメッセージをお願いいたします。

社会実装に向けた取り組みは、想像以上のスピード感で着実に進展していました。BlueRebirth協議会には当初掲げた目標を見失うことなく、前進し続けてほしいと思います。その挑戦は、日本発のサーキュラーエコノミーモデルを世界に示す大きな一歩になると確信しています。

 

自動精緻解体の価値をどこで最大化するか

早稲田大学理工学術院 理工学術院長  環境資源工学科 教授 所 千晴 様

Q1. 見学会を通じて、どのような印象を持たれましたか。

使用済み自動車をロボットで解体するというコンセプトが成り立ち得る時代になったのだと実感しました。まさに「時代は変わった」と言えるでしょう。実際の現場を拝見し、あらゆる車両に対応できるよう、機械や動作の一つひとつが丁寧に作り込まれており、社会実装に向けた強い意志を感じました。

Q2. 社会実装に向けた期待感についてお聞かせください。

自動解体を広く社会に普及・実装していくことを考えた場合、その強みを生かせる領域は主に「作業安全の確保が難しい対象や環境」と「人手では単体分離が困難な部材」の二つにあると考えています。まずはこれらの領域を起点に自動化を進め、その適用範囲を広げていくことも一案でしょう。その上で、ロボットによる精緻な自動解体という価値をどの分野で最大化していくのかは、今後も継続的に検討いただきたいです。

Q3. 見学会を通じて見えた今後の課題、乗り越える論点はどこにあるでしょうか。

今なお、人と重機による従来的な解体から学ぶべき点は多いと考えています。技術者が長年かけて培ってきた熟練の手仕事や、経験の積み重ねによって育まれた「現場力」には大きな価値があります。こうした知見をどのように技術へ落とし込み、活用していくのかに注目しています。また、技術の横展開やトレーサビリティの実現という観点から、これまで以上にデータの蓄積・管理も重要になってくるでしょう。個人的には、解体手法のさらなる拡大に向けて、ロボットアームに多様な外部刺激を搭載できるよう、開発を進めてほしいと考えています。

Q4. BlueRebirthに期待する役割について教えてください。

BlueRebirth協議会は、自動車産業におけるサーキュラーエコノミーの実現に向け、共に汗をかく覚悟のある企業・団体が集まる唯一無二の団体です。組織として風通しの良さを保ちながら、それぞれの知見や意向を十分に共有し、納得できる着地点を見いだしてほしいと思います。同協議会が、国内外に誇る実効性あるコンソーシアムに成長していくことを願っています。

Q5. 最後にメッセージをお願いいたします。

技術開発を着実に進めることはもちろん重要ですが、それと並行して、「自動精緻解体」という新たな価値を広く社会に伝え、理解を深めていく取り組みも欠かせません。技術開発と社会への発信を両輪として進めながら、新たな可能性を切り拓いていってほしいと思います。今後の挑戦に大いに期待しています。

自動精緻解体の価値を、自動車リサイクル全体の中で考える

公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部 エコ・マネジメント・センター長 喜多川 和典 様

Q1. 見学会を通じて、どのような印象を持たれましたか。

以前見学をした時と比べ一つひとつの動作が滑らかになっており、洗練された印象を受けました。自動精緻解体を実現するうえで必要となる基礎的な技術や知見は、着実に蓄積されつつあると感じています。一方で、使用済み自動車特有の個体差、すなわち車種ごとの違いや経年劣化への対応については、引き続き検討課題であると認識しています。社会実装に向けて、今後どこまで完成度を高めていけるのか楽しみです。

Q2. 社会実装に向けた期待感についてお聞かせください。

自動車リサイクル全体を一つのエコシステムとして捉えたとき、自動精緻解体がその中でどのような役割を果たすべきか、改めて整理していく必要があると考えています。例えば、重量物の取り扱いや長時間作業など、機械が得意とする領域を生かし、現場で人が担っている危険な作業を機械に置き換えていくアプローチも有効ではないでしょうか。自動精緻解体の価値をどの領域で最大化していくのか、自動化のあり方や基本的な思想についても議論を深めていくことを期待しています。

Q3. 見学会を通じて見えた今後の課題、乗り越える論点はどこにあるでしょうか。

BlueRebirthが目指しているのは、自動精緻解体によるモノマテリアル化(単一素材化)の実現です。しかし、自動車解体の複雑性を考えると、技術開発に要するコストと採算性の両立は避けて通れない課題です。リサイクラーや素材メーカーが求める再生材の規格を正確に把握し、必要に応じて一部の工程では既存技術を活用するなど、柔軟なアプローチも必要になるのではないでしょうか。

Q4. BlueRebirthに期待する役割について教えてください。

自動精緻解体は、ロボット解体技術に加え、DPP(デジタルプロダクトパスポート)などのデータ活用によって支えられる技術です。スムーズなロボット解体を実現するには、出自が明確で質の高いDPPデータが不可欠であり、その蓄積は資源循環の高度化に重要な知見をもたらします。こうした知見は、その知見を解体プロセスの高度化だけでなく、再生材の活用を前提とした自動車設計のあり方へと還元され、将来的な提言へとつなげていくことも期待されます。

Q5. 最後にメッセージをお願いいたします。

自動精緻解体という新しい技術には、大きな可能性を感じています。だからこそ、技術開発そのものを目的化することなく、実際の自動車リサイクルの現場で価値を発揮し、社会実装につなげることに徹底的にこだわっていただきたいと思います。自動精緻解体の真の価値は、高品質な再生材の安定供給や資源循環の高度化にあります。自動車リサイクルというエコシステム全体の中で、この技術がどのような役割を果たし、どのような価値を創出できるのかを常に意識しながら取り組みを進めていただきたいです。BlueRebirthの挑戦が、日本の資源循環モデルの発展や自動車の循環設計の進化につながることを期待しています。